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犬好きのみなさん(犬が嫌いな人も含み)、日本中で関心を集めてしまった、おとといの千葉県松戸での「紀州が飼い主を噛み、3人の警官が13発撃って、射殺した」事件。
いろいろ思うところがあり、ちょっと調べてみた。本当は、松戸署や飼い主やJKCや日本犬保存会などに取材に行ってみたいものだけど、時間も許さぬので、報道から抜粋する。

いちばんシンプルに、中立に書いていたと思われるのが時事通信。↓

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飼い主かんだ犬射殺=警官が13発―千葉・松戸
時事通信 9月14日(月)13時37分配信

 14日午前2時ごろ、千葉県松戸市稔台の路上で「女性が犬にかまれた」と110番があった。
 県警松戸署員3人が駆け付けたところ、飼い主の無職男性(71)に覆いかぶさってかみついており、その後犬が向かってきたため、3人で拳銃計13発を撃ち射殺した。男性とアルバイトの女性(23)=いずれも同市在住=が左腕をかまれる軽傷を負った。
 同署によると、犬は7歳のオスの紀州犬で体長約1.2メートル、体重約21キロ。13日夜に逃げ出し、男性が行方を捜していた。男性には、女性にけがをさせた過失傷害の疑いもあるとみて、詳しい状況を調べている。
 現場は新京成線みのり台駅東約300メートルの住宅街。浜元裕彦副署長は「犬は警官に牙をむいて襲い掛かっており、発砲は適正、妥当だ」と話している。
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これが事件の概要。
射殺というのがセンセーショナルだし、また紀州は飼い主まで襲う「狂暴な」犬、という印象を広めてしまったように思う。
その後、飼い主は、適正飼養とはほど遠い飼育方法をしていることも報道され、散歩にも行かず、劣悪なベランダにつながれ、犬に相当なストレスがかかっていたことも容易に想像できるし、そんな状況なら適切なトレーニングや飼い主との関係ができていたとはとうてい思えない。だから、事件になってしまった。

産経新聞によると、「男性がおとりになって、手ぬぐいを巻いた左腕にかみつかせて捕獲を試みたが、左腕の別の場所をかまれて失敗。」とある。なぜ自分ちの犬を制止させたり、捕まえて首輪をつけることもできないのか。まず、ここが問題だ。
警察官が人襲った体長120センチ「紀州犬」に13発発砲し射殺 住民「テレビ番組かと…」 千葉・松戸
産経新聞 9月14日(月)18時21分配信


たしかに犬種によっては攻撃スイッチが入り、興奮状態になった犬を抑制することは難しいこともあるのは事実。たとえば闘犬種としてマスチフとテリアを交配したような犬種は、飼育管理者は犬種の性質を熟知した人であるべきで、興奮状態の犬を止めるのは、簡単ではない。むろんそれはクマ狩りやイノシシ猟に使う牙で仕事する犬も、またそれ以外の犬種でも同じ。(小型犬でも本気をだして噛まれたら、人間の手のひらを貫通する。私もチンに噛まれて貫通したことがあり、小型犬の牙もすごいなぁとある意味感心した。チンの名誉のために補足するが、チンは病気のため痛みがあり体を触られたくなかったのに、私が動物病院の診察台の上で保定を手伝ったため噛まれた。私の技術や準備がなかったから噛まれただけだ)。

でも、普通の健康な犬なら、普通にちゃんと家庭犬として飼育しているなら、飼い主の声は聞こえるはずだ。紀州だって、本来は多くの犬種の中でとくに飼い主に忠実な、飼い主だけの言うことを聞くタイプだ。どういう飼い方をしていたんだ。問題の根幹はここにある。紀州という犬種特性を理解し、性質を熟知し、適正飼養できている飼い主なら、こんな事件は起きない。

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さらに、紀州が飼い主に攻撃する瞬間の映像も公開されている。

飼い主ら襲った犬に発砲 防犯カメラが襲いかかる瞬間とらえる
フジテレビ系(FNN) 9月15日(火)18時29分配信


ナレーションでは、「犬は、尻尾を振りながら、甘えている様子だった。すると突然、犬が飼い主の左腕にかみついた。
何度もたたきながら、犬を引き離そうとする飼い主。犬は、執拗(しつよう)に追いすがった。」

「甘えている様子」? 「すると突然」?
 甘えてないよ(そう言うと、甘えていたのに犬が豹変したかのような印象を与えるじゃないか。なぜテレビはそういう言い方をするんだ? 誰の見解だ? 専門家がそう言ったのか?)。攻撃性が突発的に発現する「激怒症候群」というキレる行動異常(先天性のてんかんの病気の1種とされる)がでる犬種もあるが、紀州では聞かない。豹変したのではない。

最初、犬は甘えてはいるわけではないが、しっぽは振ってて、飼い主だと認識して寄ってきている。あのしっぽの振り方は好意的なのか、あるいは緊張・警戒のアドレナリンがでている状態なのか判別は難しいが(普段から犬に近寄るときに、叩いたりする飼い主なら、飼い主であっても警戒する)、とりあえず他人ではなく、知っている人だと犬は認識している。そのとき、紀州を刺激しないで、そっと捕獲すれば(=リードを首輪につなげば)、こんな事件にはなっていなかった。

なのに、飼い主はなぜリードを持っていないで、タオルを腕に巻いている? もうここがおかしい。
いつもそうしないと捕獲ができないのか? 散歩に毎日行くのが当たり前のはずだが、リードの付け方も知らないのかもしれない。

そしてたしかに報道のとおり、紀州はクマやイノシシやシカといった大型獣を狩るのが本業なので、狩猟本能は強い。ひらひらと腕に巻いたタオルが、目の前をチラチラ動いたら、そりゃー噛む。いや、原則として、獣と人間(ましてや飼い主)は犬は区別がつくから、人間を噛まないように教えていれば、噛まない犬に育てることもできる。でも、この犬は教わっていない。(うちの犬も狩猟本能は強いが、人間を噛むように教える方が今となっては難しい)

しかも飼い主は思いきり、犬の頭やからだを殴っている。バンバン叩かれたら、犬はよけい興奮する。口を放したら、よけい自分の立場が悪くなるじゃないか。ましてや猟犬だ。相手が攻撃した分、燃えて、よけいに離すもんか。それが狩猟本能だ。

「犬は、執拗(しつよう)に追いすがった」 執拗という言葉の選び方にも、わざと視聴者の恐怖心を煽る恣意的な印象を受ける。よけいに興奮させる刺激を与えたのは、飼い主の方。くわえたものをそう簡単には離さず、ブルブルと左右に振るのも、猟犬の本能で、ごく当たり前のことだ。

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さらに、今回の報道で気になること。
各新聞も、テレビも
紀州のことを、「体長約120センチ」あるいは、詳しく書いているところは「体長122センチ」と書いてる。

体長120!?
体長というのは、人間の身長とは違う。犬種スタンダードの規定では「肩端または胸骨端より後躯の座骨端までの長さ」とある。肩端とは肩関節のこと。↓の写真参照(特別出演、サルーキのボダイ。ドイツはベルリンより参戦)

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そして、肩関節の間に挟まれている突起部分が胸骨端。
犬によっては肩関節か胸骨端が体幹の一番前部分に出ているから、そこから尻尾の付け根までを測って体長とする。

ともあれ、胸でいちばん前に出っ張っている部分〜おしりの骨(しっぽの付け根)、の長さを指すと考えてよい。

ただ、通常の犬種スタンダードは、犬種の大きさを示す際に、「体高」を使う。体高とは「キ甲の最高点〜地上までの長さ」。キ甲部とは、首のうしろの付け根部分(首輪の位置あたり)。つまり首の後ろからまっすぐ垂直に地面までを測る。

体重記載がある犬種もたまにあるが、体重は記載のない犬もいる。体長の記載はほとんどない。
紀州の体高は、オス:52センチ、メス:49センチだ。(スタンダードに体長、体重記載なし)

今回のオスの紀州の体重は21キロと報道されている。
うちのメスボクサーのメルも21キロだ。きっとこれくらいのサイズの犬なのだと思う。
メルの体長は、いま測ってみると、肩関節の端〜座骨まで、56センチだ。
1〜2センチの計り方の誤差はあるかもしれないが、体長120センチの犬となると、メルより2倍も大きいサイズとなる(体重は同じなのに)。そんな犬はいない。
(前述のオスサルーキ。マズルもシュッーと長く、ボディもシュッとしているサルーキですら、体長は70cm。ちなみに長いマズルの鼻先からお尻までで1m弱だったとのこと)

報道された紀州の「体長120センチ」という数字は、頭の鼻先から測ったサイズなのではないかと推察される。間違ってる。
いや、頭の先から測っても120センチには届かないな。死体の、首がダラッと伸びた状態で、鼻先から測ったのか、しっぽの先まで測ったのか? 警察が計測したのだろうが、この数字の根拠も不思議だ。恐怖心が大きすぎてまともに計れず大きめに見積もったのか、あるいは、発砲しちゃった手前、「巨大な狂暴な犬」というイメージを、国民に与えてごまかしたいのか。

ちなみに、2009年にも、犬が射殺された事件が愛知県であった。そのときは土佐犬。

土佐犬を警官が射殺 体長125センチ
(2009年1月11日 47NEWS編集部 湯浅泉)


この記者も、「昨今は街中で、多くの大型犬が飼い主とともに平然と散歩している。大問題なのではないか。」と書いてるところを見ると、大型犬をよく思ってない人なんだろうなぁ、まあ報道ではなくコラムだから主観的に書くのは中立でなくてもよいのでしょうがないけど、ただここで言いたいことはそのことではなく、土佐犬の体長が125センチと記載してある部分。「体長125センチの土佐犬が、近くを散歩していた男性に乗りかかるなどしたため、巡査が発砲。」。

中型犬の紀州と、超大型犬の土佐が、ほぼ同じ120センチの体長であるはずがない。たぶん、体長120レベルというのは、土佐犬クラスの大きさだと私も思う。

犬の世界では、犬のサイズを、体高や体重で判別するけれど、でも、一般の人にはたしかにわかりにくいから「体長」表現するのはしょうがないと思うけど、数字が誤報過ぎる。
紀州は、大型犬じゃない、中型犬だ。中型犬と報道しているところもあったけど、大型犬と報道している方が多かったように感じる。

意外と大手メディアより、スポーツ新聞の方が、丁寧に書いている気もした。文字量をたくさんもらえるという理由もあるだろうけど、でも公平・中立に書くためには、誤解を与えないように丁寧に書くことは必要でもあると思う。
私が調べたかぎりだが、日刊スポーツだけが、ちゃんと注釈で、紀州の犬種について、記載していた。でも体長は120センチだったけど。きっとこれは警察発表なんだろうね。

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人襲った紀州犬に警察官発砲13発 3人がかり射殺
日刊スポーツ 9月15日(火)9時57分配信


犬は7歳のオスの紀州犬とみられ、体長約120センチ、体重は21キロ。
(略)↓ 記事末に記載

 ◆紀州犬(きしゅうけん) 和歌山県原産の中型日本犬。家庭で飼われることが多く、飼育頭数ではシバイヌに次ぐ。狩猟犬だった地犬とオオカミの交配種を先祖に持つ。警戒心が強く、忠実、従順な性格とされる。白毛の個体が多い。1934年に、秋田犬や甲斐犬に次いで天然記念物に指定された。体高46~55センチ、体重15~25キロ(雄が若干大きい)。

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「オオカミの交配種を先祖に持つ」というのは、まだ判明していないし、少なくともずいぶん大昔の頃の話だと思うけど。やっぱり「オオカミに似て、獰猛なんだねー」という印象を与えたいのだろうか。

ちなみに日本犬保存会の紀州の紹介のページはこちら。 紀州は中型犬である。(リンクがうまく貼れなかった。このリンク先の左側にある「紀州犬」というとこをクリックしてください)

JKCの紀州のページはこちら。

オオカミのくだりはどこから持ってきたのだろうか。

そもそも、犬がこうした事件を起こしたとき、犬側の言い分を伝える、といったらなんだけども、犬種の専門家の意見も聞き、公平に報道してくれればいいのに、と思う。犬種団体が正しく機能している諸外国では、そうすることも多いとのこと。
今回の数ある報道の中で(私が調べたかぎり。ほかにも今後でてくるかもしれないけど)、日本犬保存会にコメントをとっていたのは1社のみ。(JKCはなし)

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紀州犬に襲われ警察官発砲!3人で13発・・・飼い主や通行人も噛まれ負傷
2015/9/15 11:37 ワイドショー通信簿{あさチャン!」(TBS系)


(前略)
通行人の女性が犬に噛みつかれていると110番があった。警察官が駆けつけたところ、飼い主も噛みつかれており、制止しようとした警察官にも襲いかかってきた。このため、3人で約10分間撃ち続け、犬は13発で倒れたという。噛みつかれた2人は腕などに軽傷を負った。

犬は紀州犬で体長120センチ。和歌山県などから紀伊半島の一帯で古くから猟犬として飼われている。日本犬保存会の卯木照邦専務は「もともと猟犬でした。子どもが手を出しても何でもない犬もいれば、けんか早い犬もいるし、いろいろですね。怖がりの犬なので、何かされるっていう感覚で食いつくことがあるんですね」という。

紀州犬が人を襲う出来事は過去にもある。1997年、茨城県でイノシシ狩りの途中でいなくなった紀州犬に女の子が足をかまれた。03年には三重県で女の子が飼い犬に頬をかまれたことがある。いずれも重傷だった。
(後略)

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ここでも体長120センチのままだ。せっかく日本犬保存会にコメントとって、同じ段落内に書くのなら、そこも確認すればよかったのに。と、同じマスコミのはしくれとして思う。

ともあれ、同じ「あさチャン!」ではこんな風に最後に言っている。

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千葉県警警松戸署は「緊急避難で発砲した。拳銃の使用は適正かつ妥当だった」とコメントした。
夏目「紀州犬がどのように暴れていたかわかりませんが、警官3人が犬が倒れるまで10分間、交互に13発発砲したといいます。恐怖を感じた方も多かったと思いますね」
野村修也(中央大法科大学院教授)「警察官が拳銃を使用するにはルールがあります。警察官職務執行法第7条に、必要性であることに加え、合理的な限度内にあるかどうかについても定められています。今回の場合は13発も撃つ必要があったのか、そこに問題点があるように思えます」

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たしかに犬に慣れていない人から見れば、攻撃スイッチの入っている中型犬は脅威だと思う。
でも、「警官3人が犬が倒れるまで10分間、交互に13発発砲した」というのは、冷静な対処ではない。よほど警官も焦っていたのだと思うけれど、発砲できる立場の人間が、我を忘れて撃っていいのか? これは「緊急避難で発砲なので適正」と松戸署は言っているけれど、こういうのを「乱射」と日本語では言うのではないか? 
流れ弾が誰かをケガさせなかったのは幸いだ。

動物園の動物が逃げたら、麻酔銃や麻酔付き吹き矢を使う方が主流ではないのかなとも思う。動物愛護センターや保健所には、野犬狩りに使う、ワイヤーを首にヒュッと引っかけて絞める捕獲器も持っているのではないか。捕獲器も動物福祉に反する道具ではあるけれど、撃たれて、10分間も苦しみを与えるよりマシだったのではないかと思う。まあ、その準備をする余裕のない「緊急事態」だったということなのだろうが。

紀州犬も、飼い主も、警官も、みんなパニックになってしまった。
冷静に対応できる人が現場にいなかったのは残念だ。

次からこういう事件を起こさないように、飼い主も、公務側も、犬を飼うってことは重大な責任を持つという認識と、犬を適正飼養するためにはどういう仕組みや法整備をした方がいいかなどを、熟考していかねばならないと思う。私も、もちろんいち飼い主として、そしてマスコミのはしくれとして、肝に銘ずるし、機会をもらえるならどんどん記事を書いていきたいと思う。微力だけど。草の根的でも、頑張る。

(あまりにも紀州が不憫で、悶々としてしていたので、自分の仕事をそっちのけで、書いてしまいました)
白石バドバドかえ
Posted by白石バドバドかえ

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